ヒトが生命活動を維持していく上で重要なのがタンパク質です。タンパク質は5大栄養素の中の1つで筋肉、骨、内臓、血液など身体の組織を作る重要な成分です(図1)。私たちはタンパク質を栄養源として摂取していますが、私たちの身体の中で自ら作り出しています。身体の中で作られたタンパク質によって、呼吸、食べ物の消化、栄養源の吸収、自然治癒などといった日常生活において当たり前のことが無意識にもできています。では、どのようにタンパク質が作られるのでしょうか。
タンパク質の情報が保存されているデオキシリボ核酸(DNA)という遺伝物質からリボ核酸(RNA)へコピーされるステップ(転写)を介してタンパク質が作られます(図2)。RNAには様々な種類が存在します。タンパク質の情報の保存、タンパク質の産生、タンパク質の産生量の調節など、RNAからタンパク質が作られる過程(翻訳)において、RNAはとても重要な役割を担っています。
RNAは主に翻訳性(コーディング)RNAと非翻訳性(ノンコーディング)RNA(ncRNA)に分類されます(図3)。翻訳性RNAはタンパク質の情報が保存されている伝令RNA(メッセンジャーRNA、mRNA)のみで、3塩基ごとにアミノ酸の情報が暗号化されています。
一方、ncRNAはHousekeeping ncRNAとRegulatory RNAに分類され、複数種類存在します。Housekeeping ncRNAは主にタンパク質の合成の場であるリボソームの構成成分のリボソームRNA(rRNA)、mRNAの暗号に対してアミノ酸を運ぶ転移RNA(トランスファーRNA、tRNA)などがあります。Regulatory RNAはさらに分類され、200塩基以上のものを長鎖非翻訳性RNA(long non coding RNA、lncRNA)、200塩基未満のものをスモールノンコーディングRNA(small ncRNA、small RNA)と呼ばれています。
その中でもマイクロRNA(miRNA、miR)は治療薬の開発および診断に利用できる期待があることから、近年では注目が集まっています。
miRNAは20〜25塩基からなるとても短い1本鎖RNA分子で、哺乳類を含む様々な生物に存在していることが明らかとなっています。現在ではヒト由来のmiRNAは約2700種類発見されており、主に血液、尿、涙、汗、唾液などの体液に存在し、エクソソームという直径40〜160 nmの顆粒状の物質に内包されています。また、miRNAは細胞増殖、分化、代謝、アポトーシスなど生体内において重要な役割を担っていると考えられています。
miRNAはmRNAに部分相補的に結合しmRNAの分解を引き起こすことで、翻訳を阻害します。また、mRNAに対して部分相補的に結合することから、1つのmiRNAが複数の遺伝子を制御することになります。逆に1つの遺伝子が複数のmiRNAに制御されることになります。
例)miR-139-5pはGABRA1、SPOCK1、NOTCH1の複数の遺伝子を制御する一方、GABRA1遺伝子はmiR-139-5p、miR-181a-5p、miR-155-5pの複数のmiRNAによって制御されています(図4)。
このような複数対複数の制御という複雑なメカニズムにより、miRNAは私たちの細胞や臓器が正常に機能できるようにタンパク質の生産を調節しているのです。
近年の研究により、がん、心疾患、糖尿病、高血圧性疾患、ウイルス性などの様々な疾患において、特定のmiRNA量が増減することが明らかになっています。miRNAの発現解析を行うことにより、miRNAプロファイルから多くの疾患を診断できる可能性があるため、miRNAはバイオマーカーとしての実用化が将来的に期待されています。